夏の庭 3

 僕(木山)はなかなか、おじいさんの顔を覚えることが出来ない。もちろん道で会えば、すぐに分かる。でも、家に帰ってひとりになった時思い出そうとしても、なぜか輪郭のぼやけた粘土の人形みたいで、はっきり思い出すことが出来ないのだ。

 老人の家の玄関扉が開いた。僕らすばやく駐車してある車のかげに隠れると、尾行を開始した。どうせ行く先はいつものコンビニに、決まっている。

 だが、そのコンビニにおじいさんはいなかった。いつもの公園に向かったがそこにもいなかった。3人は少し焦った。

 3人はそれぞれ分担した3方面に分かれて百戦錬磨の機敏な諜報部員のように、散った。

 結局、日が暮れてもおじいさんは見つからなかった。ついでにおじいさんの家に寄ってみると既に戻っていた。中にはあかりが灯っていた。

 3人はおじいさんの尾行に夢中で塾に行くのを忘れていた。それでも、いい子ちゃんの木山はあと30分で終わりだというのに、塾に行こうと言いだした。

 1学期最後の土曜日。山下は店の手伝いがあるので、僕と河辺はふたりで夕方の張り込みを続けていた。

 後ろから誰かが呼びかけた。山下だ。ずっと走ってきたのだろう、汗だくだ。手伝いを抜け出して、刺身をくすねてきた。これをおじいさんに食べさせるのはどうだろう。おじいさんの食事は、僕たちが見張っている限りでは、コンビニの弁当と缶詰ばかりだ。

 山下は、おそるおそるブロック塀の切れ目から、玄関の前の端の欠けた敷石に手を伸ばして、そっと刺身が乗った皿を置いた。そして、玄関の扉をどんどん、とノックした。

 僕たちは近くのクルマのかげに隠れた。玄関の扉が開き、おじいさんがあたりを見回し、かがみ込み、立ち上がり、また扉を閉める。戻ってみると、皿はなかった。