思考の整理学 II カクテル

 頭の中の酒をつくるには、どうするか、については、思考の整理学 II 寝させるを参照していただきたい。そこから生まれるものが、自分の思考であって、混ざりものがない。すくなくとも、他人からの混入のあとは残っていない。独創である。

 こういう考え、着想をもつと、どうしても、独善的になるものらしい。

 自分だけを特別視するのは思い上がりである。他に優れたものはいくらでもある。ものを考える人間は、自信を持ちながら、なお、あくまで、謙虚でなくてはならない。

 ただ、カクテルもどきになってはいけない。例えば、ある作家の女性の描き方について、ある独自の見方をする研究者がいたとする。仮に自分の見方がX説だとする。そして、他の先行研究があるかどうかを検討して、A,B,C,D説がすでに存在するとしよう。

 独善に陥ってはいけないためにA,B,C,D説だけをもとにして、論文をまとめようとしてはいけない。これをしてしまうと、自分の地酒Xはできていない。まるで他人の酒で勝負することになる。

 では、どうすればよいのか。同じ問題について、A,B,C,D説があるとする。自分が新しくX説を得たとして、これだけを尊として、他をすべてなで切りにしてしまっては、蛮勇に堕しやすい。A,B,C,D説とX説をすべて認めて、これを調和折衷させる。

 こうしてできるのがカクテルもどきではない、本当のカクテル論文である。すぐれた学術論文の多くは、これである。人を酔わせながら、独断に陥らない手堅さを持っている。