思考の整理学 II エディターシップ

 

 小説家が、いくつかの小篇集を編むことがある。小説でなくても、方々に書いたエッセイなどをまとめて、本にして出版するということもよく行われる。

 こういう編纂ものではおもしろいことがおこる。ひとつひとつの文章や作品は、それほどとくに秀れているわけではないのに、まとめられると、見違えるように立派になる場合である。そうかと思うとその逆もあり得る。

 全体は部分の総和にあらず。上手に編集すれば、部分の総和よりはるかにおもしろい全体の効果が出るし、各部分もそれぞれ単独の表現だったときに比べてはるかに見栄えがする。

 知のエディターシップ、換言すれば、頭の中のカクテルを作るには、自分自身がどれくらい独創的であるかはさして問題ではない。もっている知識をいかなる組み合わせで、どういう順序に並べるかが緊急事となるのである。

 いまかりにABCDEという五つの問題があるとする。これを集大成するには、ただ、それらをくっつければよいのではない。

 ABCDEの順ではまるでおもしろくないが、EDCBAとしたら、一変しておもしろくなるということがある。ECDABとすれば、また別の見え方をするであろう。もっともよき順序に並んだときにもっとも大きな意味を生み出す。

 鬼面人をおどろかすような考えを次々生み出す人の頭は、知のエディターシップが活発であることが多い。